四弦ルーズネス(第2稿) ・ シーン1 アパートの屋上 手すりにもたれて煙草を吸いながらボーッとしている藤吾。 _(モノローグ)レポートもういっかなぁ。期末試験頑張ればなんとかなるっしょ。多分  背後のドアが開き、茂庭が現れる。こっそりと藤吾に近づき、肩を揺さぶり驚かす。 茂「ふおおおお!!」 藤「ぅおわっ!なっ、ちょっ、茂庭さん。マジ勘弁してくださいよ。何すか、いきなり」 茂「藤吾、今晩は練習来れる?7時半からスタジオとってるんだけど」 藤「あー‥‥大丈夫っすよ。行きます」 茂「おっ、来れる!?レポートはもういいの?大丈夫?」 藤「いやー、全然手ぇつけてないんすけど、まぁ、もうどうでもいいかなーとかって」 茂「何じゃそりゃ、お前。それなら昨日も来い!(苦笑い)」 藤「いや、やろうやろうとは思ったんすけど」 茂「結局ダラダラと屋上でヤニを吸っていたと」 藤「まあ、そんなとこですかね」 茂「こら(蹴り)。今度東京でライブやるかって話出てるんだから、もうちょい気合入れろよ、お前」 藤「マジっすか!片倉さんっすか?発案者は」 茂「んー。かっちゃんは相当やる気だよ。ベースも頑張んねえと(肘で藤吾をつつく)。   藤吾の友達で東京行ってるヤツとかいるんでしょ?見せつけてやれって、お前」 藤「うぃっす。頑張りますよ」 茂「おし、じゃあ今晩ちゃんと来いよ」ドアの方へ向かう。 藤「ラジャ。片倉さん達にもよろしく言っといてください」 茂「おう」ドアを開けて降りていく。 _おしっ、気合入れっか!_  伸びをし、ベースを弾く真似をしだす。ノッてきたところで背後から声がかかる。 山「何やってんの?藤吾」 藤「おーっ、ヤマ」  隣接するマンションの階段を山岡が降りて来る。 山「藤吾、今晩空いてる?飲みあるんだけど」 藤「飲み?飲みかあ。行きたいけどバンドの練習あんだよね」 山「マジで?たまにはいいじゃん休んでも」 藤「いやー、ここんとこ休みがちだったから今日は行かないと」 山「あーあ、せっかく藤吾に会いたいっていう子も来るのになー」 藤「え?何それ。女の子?」 山「いいよいいよ。俺達だけで楽しんでるから。じゃ、練習頑張ってねー(階段降りだす)」 藤「いやっ、ちょっ、待って!」 山「次ライブいつあんのー?みんなで行くからー」 藤「ちょっ‥‥。すいませーん、やっぱり僕も行かせてくださーい」 山「(階段昇ってきて)7時にいつものとこね」 藤「いつものとこ」 山「じゃ、遅れんなよ(また降りていく)」 藤「おーう」  しばらくその場に佇む藤吾。電話をかけだす。 藤「あ、茂庭さん。すいません今日ちょっと練習行けなくなっちゃって‥‥」 ・ シーン2 夜道 歩いて居酒屋へ向かう藤吾。 _また休んじまった練習‥‥。明日は絶対行かないとなあ。つーかまあ行くよ?行くに決まってんじゃん。レポートは切ったし。これで音楽に集中できるよな。ん、頑張るぜ俺!_  タイトルバック ・ シーン3 居酒屋 席には藤吾、山岡、男女の友人2,3人?それに屋代。藤吾と屋代が対面。 屋「藤吾、久しぶりぃ。元気してた?」 藤「俺に会いたい子って‥‥(山岡の方を見る)」  山岡ニヤリとする。溜め息をつく藤吾。 屋「おいおい、旧友に会ったってのに溜め息はないでしょ」 藤「こっち戻って来るんなら連絡くれりゃよかったのに」 屋「いや、ホントはこっそり大学行って驚かせようと思ったんだけどねー。ヤマに見つかって」 藤「何やってんの。東京の方はどうなのよ」 屋「んー、相変わらずバイトしながら原稿書いてんだけどさ」  言いながらカバンから文芸誌を取り出し、藤吾の前に誌面を広げて置く。  みんな注目する。誌面を読む藤吾。 藤「‥‥あ、屋代 景」 友「え、何?賞とったの!?」 友「芥川賞!?」 山「んなわけないだろ」 屋「いや、残念ながら候補にあがっただけ。それにそんなでかい新人賞じゃないって」 友「でも雑誌に名前載ったんだ。すごいじゃん」 屋「上京した頃に比べたら進歩したかなーと思って。それでこっち帰ってきたんだよね」 藤「てか何、文壇デビューしそうな勢いじゃん」 屋「まー、大変なのはこれからだけどねー。藤吾はどうしてたの?」 藤「俺?」 友「藤吾はこないだ彼女にフラれてたよねー」 藤「うっせー、ほっとけ(苦笑)」 屋「ベースまだやってるんでしょ?」 藤「おう。こっちもデビュー目指して活動してるよ」 _何だこれ。なんかこの2年で俺とヤッシー、差ぁついちゃってません?_ 藤「今度東京でライブやるかもしんないから観に来いよ」「おー、行く行く。最前列のチケットよろしくね」「何、藤吾達東京でやるの?」とかなんとか ・ シーン4(回想) 球状の遊具に座って大学ノートを読んでいる藤吾。そこに缶コーヒーを手に屋代がやって来る。2人とも学生服。 屋「(藤吾にコーヒー渡しながら)どう?」 藤「んー。どうって‥‥俺あんまし本読まないから分かんないけど悪くはないんじゃないの?」 屋「でもこないだの新人賞では落ちちゃったんだよねー、それ」 藤「あー、やっぱ厳しいんだな(缶コーヒー開けて飲む)」 屋「授業中小説ばっか書いてるからさー、内申やばくてもう進学出来そうにないんだよね(自嘲気味)」遊具を回しだす。 藤「そりゃもう作家になるしかないな」 屋「ホント最近どうしようか悩んでんだよねえ(溜め息)」  屋代もコーヒー開けて飲む。180度くらい回って遊具が止まる。 屋「藤吾は大学だっけ?卒業したら」 藤「ああ、ま、一応ね(コーヒー飲む)」 屋「どーすんの大学行って?音楽続けるの?」 藤「そのつもり。俺から音楽とったらなんも残んないしなー」 屋「藤吾もミュージシャンで食ってく?」 藤「(笑って)そんな才能あるかなー?まあ思いっきし頑張れば花開くかもしんないし頑張ってみますよ」 屋「おー、じゃ同類だな」 藤「お前と同類かよ。マジ勘弁して(笑いながら)」 屋「おいこら、何だその言い方(笑いながら遊具を思いきり回しだす)」 藤「うおぅ、お代官様ぁ、おやめになってぇー」 ・ シーン5 夜道 藤「オエ‥‥」  電柱の下で戻している藤吾。 _何やってんだ俺?_  口元をぬぐい、溜め息をつく。 _受賞候補かあ‥‥。ヤッシー近づいてんじゃん、夢に。‥‥何やってんだ俺は?_  まだ酔いが残っているのか多少フラフラしながら歩くが、すぐに塀にもたれかかり、そのままズルズルしゃがみ込む。 _すいません、気付いてました。心の底の方でちょっと、焦ってたかも‥‥このままでいいわけないっつーのな_  溜め息ひとつ。 _言い訳ばっかだったかも_ ・ シーン6(回想) 大学構内 す「言い訳ばっかりだよね」 藤「え」 す「もう聞きたくない。藤吾の言い訳なんて」  すず、前を向き歩き出す。後を追う藤吾。 藤「いや‥‥すず、あのさ‥‥」 す「(振り向き)あのさあのさって(怒りそうになるが愛想を尽かしたように)‥‥。藤吾いっつもどこ見てるの?」 藤「え?」 す「藤吾が見てるのはあたしじゃないし、バンドでもない。‥‥自分のことだけしかみてないじゃん(前を向き歩き出しながら)」  立ち尽くす藤吾。 ・シーン7 夜の公園 藤吾、溜め息をついて夜道を多少覚束ない足どりであるいてる。 気付くとあの公園の前に。公園の中をチラッと見る。  すると人影があの遊具の所に。藤吾の目に学生服の屋代の姿が映る。 藤「ヤッシー‥‥」  遊具の方へ近づいていく。 藤「呆れた?」  何も言わず屋代はただ藤吾をじっと見ている。屋代の傍まで来る藤吾。 藤「笑いたきゃ笑えよ‥‥何やってんの、お前って」 屋「とりあえず家帰って寝たほうがいいんじゃないかな」  ん?という表情で藤吾が屋代の方を向くと、そこにいるのは缶コーヒーを飲んでる背広の男だった。あ、という表情、そして溜め息をつく藤吾。 藤「すいません。ちょっと酔ってました」  藤吾、立ち去ろうとするが途中で足を止め、男に振り向く。 藤「あの」 男「?」  ブランコに座っている2人。 藤「‥‥頑張んなきゃいけないんですけどねー。ホント意志弱くて」 男「無理にプロを目指そうとしなくてもいいんじゃないの?趣味でやってけば」 藤「そんな簡単に諦めつきませんよ」 男「なのにダラける。‥‥まあ、夢を言い訳に現実から逃げるのは簡単だけどね。後が続かないよ、それじゃ」 藤「‥‥そういうつもりじゃ」 男「て、言い切れるんだ」 藤「‥‥‥」  2人沈黙。コーヒーを飲む男。 藤「‥‥でも、俺ホントに音楽好きなんですよ。俺、他になんの取り柄もないし。今諦めたら残りの人生なんてただの消化試合になっちゃいそうで‥‥」 男「そんな思い込みで人生の選択肢を狭めちゃうのはもったいないなあ。まだ若いんだから」 藤「‥‥んなこと言われたって」 男「甘ったれてんじゃないよ。そんなに諦めきれないんなら先ずぬるま湯から出たらどうなの?」 藤「‥‥‥」 男「まあ、俺も明日早いからさあ、これ以上甘っちょろい寝言なんて聞いてやれないよ(立ち上がりながら)」  男、帰りだすが途中で足を止め、振り返る。 男「ま、せっかく音楽やってるんならとにかく楽しんでやりなよ。何事もまずはそこからでしょ。じゃ」  帰っていく男。ブランコに残された藤吾。 ・ シーン8 夜道 走る藤吾。 _あーーーーーーーっ!!_ とにかく走る。 _出ますから!ぬるま湯から!_  ベースケースを背負って走る。 _出ます!出れるのか?出たい!出れよ!_  ひたすら走る。   ・ シーン9 スタジオ 練習室に走りこむ藤吾。扉を開けてみると誰もいない。 立ち尽くすがコードをアンプに繋ぎ、ベースのチューニングをする。弾きはじめる。 弾いているといつの間にか入口にはギターケースを背負った片倉が。 藤吾、それに気付き弾く手を止める。 藤「片倉さん」  無言のまま練習室に入り、ギターの準備をする片倉。 藤「すいません俺、皆の足引っぱってましたよね。まだ、皆みたいに本気でプロ目指す覚悟できてなくて‥‥。でも、もうぬるま湯から出ようって、覚悟決めようって‥‥、覚悟決めたいんですよ!」  無言の片倉、携帯をかけだす。 片「あ、茂庭?‥‥いや、こっちはまだスタジオ。うん、いや今こっちでベース持ったバカがわめいてるから来てくんない?保護者でしょ。あとマサと昭光も呼んで。うん、悪いねまた。じゃ」  電話を切った片倉、藤吾の方を向く。ちょっと表情和らぐ藤吾。 片「俺達に頼るなよ。お前の覚悟はお前一人で決めなきゃしょうがねえんだから」  片倉、ギターのチューニングをし、再び藤吾の方を向く。目で合図。受ける藤吾。  タンタンタン。リズムをとってギターを弾きだす片倉。そこにベースで入る藤吾。  表情が生き生きしていく。   *ここで二人が弾く曲がエンディングテーマになる予定?